はじめに(DaVinci Resolve 21のAI機能、何が変わったのか)
2026年4月14日の早朝(日本時間)、Blackmagic DesignがDaVinci Resolve 21を発表しました。今回のアップデートで最も注目を集めているのが、Neural Engineを活用した新しいAI機能の数々です。
これまでのバージョンでもノイズ除去や自動カラーマッチングといったAI機能はありましたが、バージョン21ではさらに踏み込んだ機能が一気に追加されました。音声生成、撮影後のピント調整、顔加工、メディア検索など、動画制作のさまざまな工程をカバーする内容です。
現在はパブリックベータ版として公開されており、正式リリースに向けて改善が続いています。自身もYouTubeチャンネル(登録者6万人超)を5年以上運営するクリエイターとして、またDaVinci Resolveプラグインの開発者として、「実際の制作現場でどう使えるか」という視点で各機能を解説していきます。
AI音声ジェネレーター|テキストから自然なナレーションを生成
ナレーションの収録は、動画制作の中でも意外と手間のかかる工程です。マイクのセッティング、静かな環境の確保、複数テイクの録音。AI音声ジェネレーターはそのプロセスを大きく変える可能性を持っています。
テキスト入力だけで音声が生成される
DaVinci Resolve 21のAI音声ジェネレーターは、テキストを入力するだけで自然な音声を生成します。あらかじめ用意されたボイスライブラリから声質を選び、原稿テキストを流し込むだけで音声ファイルができあがります。
さらに注目したいのが「わずか10秒のサンプルから独自の音声を生成できる」という機能です。自分の声を10秒ほど録音してサンプルとして登録することで、自分の声色に近いAI音声を使い回せるようになります。毎回本番収録しなくても、手直しや差し替えが気軽にできる環境が整います。
こんな場面で活躍する
説明動画や教材コンテンツのナレーション制作、編集中に仮で乗せておく仮ナレーション(本番録音前の確認用)、急いで仕上げたい場面での本番代替など、用途は幅広いです。
自分のチャンネルでも「一言だけ変えたいのに再収録が面倒」という場面は珍しくありません。そうした細かい修正コストを下げてくれる機能といえるでしょう。
AI CineFocus|撮影後にピントを調整できる
「撮影した映像のピントが少しズレていた」「背景をもっとボカしたかった」という経験、ありませんか。CineFocusはそんな悩みに応えるAI機能です。
撮影後にピント位置を変えられる
AI CineFocusは、映像内の被写界深度(ピントが合って見える範囲の広さ)をAIが推定し、撮影後にピントを調整できる機能です。焦点距離やアパーチャー(レンズの絞り値のことで、数値が小さいほど背景がボケます)を後から調整することで、撮影時の設定を事後に変えたような映像を生み出すことができます。
ラックフォーカス(ピントを手前から奥、または奥から手前に移動させる演出)を後付けで再現することもできます。撮影時にこうした演出を意図していなかった素材でも、ポスト編集で加えられるのは大きな可能性です。
どんな素材に向いているか
被写体と背景の距離感が明確な素材で特に効果が出やすいです。人物を前景にした自然の背景、テーブル上の商品撮影など、奥行きのある映像との相性がよいでしょう。現在はパブリックベータ版のため素材によって精度のばらつきはありますが、実用に耐えられる場面も多いはずです。
プラグイン開発者の立場から見ても、深度推定を動画に適用するのは技術的に複雑な処理で、それがDaVinci Resolve内で完結するのはNeural Engineの進化をよく示しています。
顔加工AI 3種|年齢変換、形状調整、シミ除去
バージョン21では顔に特化したAI機能が3種類追加されました。それぞれ目的が異なりますので、順に見ていきましょう。
AIフェイス年齢変換
スライダーを操作するだけで、映像内の人物の見た目の年齢を変えられる機能です。若返り方向にも老け顔方向にも調整できます。回想シーンの演出や、未来を描くドラマ・映像作品での年齢表現に活用しやすい機能です。
単なる静止画合成ではなく、動画の各フレームに処理が適用されます。動いている被写体でも自然な仕上がりになるよう、AIが追跡(トラッキング:映像内の対象物の動きを自動で追いかける機能)しながら処理を行います。
AIフェイス形状調整
目・鼻・口・眉・顔全体の輪郭形状をパラメーターで調整できる機能です。こちらも動画内のトラッキングに対応しており、顔が動いても追従します。
ドラマや映画的な制作現場だけでなく、ウェブ用の映像コンテンツや企業PR動画でも活用シーンが考えられます。撮影後のリテイクを減らせる可能性のある機能です。
AIシミ除去
肌の質感を保ちながら、ニキビ・色むら・毛穴・シミなどを映像から除去する機能です。べったりとした均一な肌にするのではなく、自然な肌感を残した仕上がりを目指しています。
インタビュー映像や証言者が映るドキュメンタリー、商品を紹介するウェブ動画など、人物のアップが多い映像で活用できます。YouTubeの顔出し系コンテンツでも使い道がある機能です。
UltraSharpenとモーションブラー除去|素材の救済に
撮影素材のクオリティに課題があっても、編集でどこまでカバーできるか。この2機能はそうした「素材の救済」に特化しています。
AI UltraSharpen
アップスケール(低解像度の映像を高解像度に拡大する処理)後の映像は、引き伸ばした分だけシャープさが落ちます。AI UltraSharpenはAIが細部を解析してシャープネスを補完する機能で、わずかなピントズレの素材にも適用できます。
「使えないと思っていた素材を復活させる」ための機能として実用的な場面が多く、ノイズ除去と組み合わせると効果的です。DaVinci Resolveノイズ除去の使い方もあわせて参考にしてください。
AIモーションブラー除去
高速に動く被写体や、カメラ自体が動いたことによるモーションブラー(動きによる映像のストリークやぼやけ)を分析して低減する機能です。単純にシャープネスを上げるのではなく、AIがブラーの方向や強さを推定して新しいフレームを生成します。
スローモーション映像やフリーズフレームのクオリティ向上に効果的です。高フレームレートで撮影できなかった素材のスロー処理や、動きの速いシーンで止まりきらなかったフレームの改善に活用できます。
IntelliSearchとSlate ID|メディア管理が変わる
大量のメディアを扱う現場では、目的の素材を探す時間も馬鹿にできません。この2機能はメディア管理ワークフローを変える可能性を持っています。
AI IntelliSearch
メディアプール内の素材を、人物やコンテンツの内容で瞬時に検索できる機能です。「眼鏡をかけた人物が映っているカット」「〇〇という言葉が発話されているシーン」といった条件で素材を絞り込めます。
大量の収録素材を扱うドキュメンタリーやイベント映像など、素材管理に時間がかかる案件で特に効果を発揮します。延べ1万人以上に動画編集を教えてきた経験上、「素材が多くてどこにあるかわからない」という悩みは非常によく聞きます。そのタイムロスをAIが削減してくれます。
AIスレートID
スレート(カチンコ。映画やテレビの現場で撮影開始時に使う、シーン番号などを書いた黒板状の撮影道具)の情報を映像から自動読み取りする機能です。暗い環境で撮影されたカットや、ピントが甘いカットからでもメタデータを自動検出できます。
プロの現場では撮影時にカチンコで管理情報を記録しますが、それを手動でメディアプールに入力するのは地道な作業です。AIがその自動化を担うことで、整理の手間を大幅に減らせます。
無料版で使えるAI機能とStudio限定機能の境界線
DaVinci Resolve最大の魅力のひとつは、無料版でも多くの機能が使えることです。バージョン21でもこの方針は引き継がれていますが、AI機能に関しては無料版とStudio版で差があります。
パブリックベータ版の時点では、無料版とStudio版でどのAI機能が使えるかの公式な一覧は明示されていません。DaVinci Resolveはこれまでも、Neural Engineを活用した高度なAI機能(ノイズ除去、Magic Maskなど)はStudio限定で提供されてきた経緯があります。
今回の新AI機能についても、CineFocus、フェイス系の加工機能、UltraSharpen、モーションブラー除去などはStudio限定になる可能性が高いと考えられます。一方、Photoページの基本機能は無料版でも利用できるとされています。
正式リリース後に公式サイトで確認することをおすすめします。
無料版のままでも十分なケースはある
CineFocusや顔加工AIはStudio限定ですが、日常的なYouTube動画の編集においては、それらがなくても困らない場合がほとんどです。一方でAI音声ジェネレーターやシミ除去が無料版でも使えるのは、多くのクリエイターにとってうれしいポイントでしょう。
プラグイン販売の経験からすると、「まず無料版で試して、必要になったらStudioへ」という流れが多いです。DaVinci Resolveの無料版とStudio版の機能差についてはDaVinci Resolve無料版と有料版の違いでも詳しく解説しています。
まとめ|DaVinci Resolve 21のAI機能で何が変わるか
DaVinci Resolve 21で追加されたAI機能を整理すると、大きく3つの方向性が見えてきます。「撮影の制約をポスト処理で補う」(CineFocus・UltraSharpen・モーションブラー除去)、「人物に特化した加工」(顔加工AI3種)、「メディア管理の自動化」(IntelliSearch・SlateID)です。
現在はパブリックベータ版のため正式リリースまでに変更が入る可能性はありますが、まずは試しながら自分のワークフローのどこにAIを取り込めるか、イメージしてみるところから始めてみましょう。
編集にさらに動きや表現のバリエーションを加えたい場合は、マジックモーション Vol.1のようなモーションエフェクトプラグインも合わせて活用すると、AIによる効率化とクリエイティブな演出を両立できます。
※ 本記事の内容は2026年4月時点のパブリックベータ版の情報に基づいています。正式リリース後の仕様と異なる場合があります。
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